競馬タイムの比較方法

昭和のはじめに我が国で出版された競馬本(絶版です)からの抜粋です。

馬場状態による競馬タイムの変化

同じ馬が、同等の能力で走ったとしても、馬場の状態(コンディション)の良、不良によって非常に異なってくることは云うまでもないことである。 従って、その時の馬場の状態がどんなであったかということを、常に注意していなければならない。競馬場で発表される馬場の状態を表現する 方法として一般に使用されているものは、良、梢重、重、不良と4種類である稀に梢良という言葉を使うこともあるが、これは前日に一寸雨が 降ったなどという場合で、良というふうには少し遅いし、梢重という程でもない場合に使うので、梢重と良の中間と見て差し支えない。

成績表で公式に発表される、馬場の状態は、以上の四種類乃至五種類であるが、果たしてこの間に、着差で如何なる時間的な差があるかと いう事になると、これも、一定の公式を以って言うことは、甚だ困難である。 同じ不良馬場 の場合でも、まだあまりレースをしていない午前中の第二競馬や第三競馬あたりと、何度もレースをして、馬場が非常に荒らされた午後の第八競馬或いは、第九競馬では、非常に条件が違う。この相違を実証統計から非常に大ざっぱにみて、良馬場の場合と不良馬場 の場合と比較すると、2000mないし1800mのレースでは、呼馬は3秒ないし4秒、アラブが4秒乃至5秒半くらい遅い。

時計の比較による、勝馬の検討

時計の比較による、勝馬の検討は、一ヶ所の競馬場にのみ於ける時計の比較だけでは梢不十分であって、各競馬毎に於ける馬場の形状に よっても多少異なるということは頭に入れておかねばならない。 この馬にはこれこれの速い時計があるといっても、無条件でそれに盲信する傾向があるが、これはそのタイムが、どこの競馬場で作られたものであるかを知っておかなければ意味のないことだと思う。

例えば、新潟、福島のように、平坦なコースで相対的に於てタイムの速い馬場もいあるし、横浜の馬場のように坂があり、追込のコースは短か かったりして逃げ馬にはいい時計が出るが、長距離向きのストライドの大きな馬には存分のスピードの出せないところもある。 或いは、中山のように、追込みコースにきてから上り坂になっているため、どうしても、時計の余計にかかる馬場もあるからタイムを比較する ときには、どこの馬場で作られたも時計であるかということも十分にすることが肝要である。

次に競走のタイムを比較する場合、同一のレース、或いは同一距離のレースならば、一端距離の異なっているレース・タイムから両馬の実力 を比較検討するとなると、例えば、Aの馬は2000m2分21秒で駈け。B馬は2200mを2分31秒でで駈けているとき、A, B両馬のスピードの比較 は次の如き方法に依る。即ち各馬のハロン速度を算出して比較することである。 ハロンとは英語のフォアロング(Furlong)の意味で、約200mの距離を云う。従って1800mは9ハロン、2000mは10ハロンとなり、このハロン単位 でタイムを割り秒以下3位まで出して、その馬のスピードとする。2000mを2分11秒で駈けた馬は、1ハロン平均13秒、120秒のスピードがあり、 2200mを2分31秒2で走った馬は、1ハロン平均13秒、763秒のスピードとなるから、この2頭ではA馬の方が遥かに速いということになる。

又、これと同様に、1ハロンを13、120秒で駈ける馬が、2400,を駈ける場合は、2400mは12ハロンであるから、これを12倍すればいいことになり この計算法によれば、どんな距離でも比較計算することが出来る。 ただこの場合、1つ注意しなければいけないことは、例えばA馬が、2000mを2分11秒1で駈けうる能力があったとしても、必ずしも13、120秒の12 倍のタイム2分37秒2で2400mを計算通りに走るか、どうかという事である。

これは、距離が長ければ長い程、馬は疲労を感じるから、なかなかタイム通りには駈けない。それに持久力の有無が長距離には強く影響する から、2200mを2分29秒で駈けた馬は、1ハロンのスピードは13秒,580秒、これを1800mに換算すると、2分2秒1となるが、距離が短くなれば、この 時計もっと短縮されるのが、一般である。

これは、馬の本来の不得意、即ち長距離に強い馬か或いは、短距離に速いかということにもより、又一般的に馬の競走能力は、距離が長くなればなるほど、それだけでタイムは悪化するものとみなさなければならない。殊に障害競走などにおいては、ペース(歩度)をゆるめるもので 距離が長くなったり、障害の程度が高くなると、ますますタイムは悪化するものである。

競馬タイムの見方

前述の如く、勝馬の鑑定にあたっては、過去の成績を調べることが絶対に必要であるが、タイム寓能論者に墜すことは注意したい。 それは、成績に表れたタイムが、必ずしもその馬の全能力、或いは、実力を表現しつくしたものではないからである。

例えば、レース中馬混みに入って、やっと抜け出して勝った場合のタイムなどは、スムーズなコースを取って邪魔されないでスピードの出せた タイムよりは悪く、又3頭立てなどで、頭の一頭が断然強く、他馬が問題なく弱く、レースの結果が大差、大差、場合は、この3頭は多くの場合決して目一杯のレースをしていないから、本来のスピードを出し切ったタイムではない。かかる場合勝ち時計は、そのフルスピード(全速力)を示したものでないから、無条件にこのタイムを全能力として盲信するわけにはいかないだろうし、又相手馬をマークしながら、ラストスパートの力を 残す為極端にハナのスピードを落としてゆくとすれば、このタイムもかなり遅くなり、長距離レースなどでよく見受ける相対的騎乗作戦___これもまた自己のペースで力一杯に走破したタイムと比較すると相当の開きがある。

この相対的騎乗作戦にによるタイムもまたフルスピードの記録として取り上げるわけにはゆかず、ある意味において、水泳選手権大会などの 予選で出したタイムと同等の性質を含んでいて、ただ勝てばよいという単一目的に終始しているから記録を目指したスピードにのレコードには ならない。

タイムを見るにしても、以上のような点を考えなければならないが、以下のレースの状況、形体如何によって、タイムにどんな影響を及ぼすかに 就いて大体述べてみよう。

レース・タイムを研究する際、まず第一に注意すべきことは、その勝時計が、一杯に逃げた時計か、追込んできたタイムかという点である。 ことに2000m以上の距離では、特にこの点を注意しておかないと、勝馬選定に大きな錯誤をきたす場合がある。

逃げ馬のタイム

逃げて勝つ場合にも、スタートからグングン他馬を引き離して、一時は50メートルも70メートルも引き離し、第4コーナーから最後の直線コースに 入って段々と後続馬に追いつかれ、1馬身ないしは、頭、クビの微差で辛うじて逃げ切る場合がある。このときの作戦は逃げきれるかつかまるか 一か八かの勝負をしたのであって、このタイムは大体において、その馬の全能力を表している。 云い換えればこの馬の最高タイムである。 それだけに、このような馬は、距離が長くなれば長くなるほど程末が弱いから、たとえ、2着との着差が大きくてもそれ以上のタイムの良化は 望むことは出来ない。

同じく逃げ馬の作戦に出るにしても、常に後続馬を2,3馬身離して、後の馬が迫ればまた引き離し、最初から同じ位の間隔をおいて逃げ切る。 いわゆる来れば離し、という状態で勝つ馬は力量に余裕ある。この騎乗作戦は絶対に勝てるという自信のある場合に多く持ちいる方法で、この 騎乗方法で作られた勝ち時計は、この馬の実力以下であるかもしれないし、更に追撃馬が強ければタイムはある程度まで早くなる可能性がある。 そしてその楽勝程度如何によっては、その馬の持久力を推察することが出来て、勝馬検討に重要な資料を持つことができる。

追込馬のタイム

追いこんで勝馬の時計にもいろいろの場合があって、1様に考えるわけにはゆかぬ。第4コーナーまでは中位にいて、直線に至って始めて牛蒡 抜きにして一気に先頭を制して勝つ馬。第3コーナー辺りから仕掛けて第4コーナーで4,5位に上り、直線コースでジリジリ追いこんで先頭の馬 の脚力の弱るのを待って勝つ馬等、色々とレースの態形が違っていて、そのタイムも幾分相違はある。がしかし、大体追込み馬は末に強いだけは共通していて、時には、距離が長くなって時計が詰まるものさへあるが、これなどは、筋肉、骨量、肺、心臓、血圧、体全体のスプリングの 抜群なるものであるが、一般的にみても追いこみ馬が逃げ馬よりは競走馬として、あらゆる素質において優れていることは事実で、その将来性 についても、期待する点は大きい。要するに追い込み馬のタイムが、同一距離で、同一コンディションの下に作られた逃げ馬のタイムよりは、 遥かに伸びる潜在力を持っている点は特に注意しておきたい。

以上の如く、レースタイムは、千差万別の事情の下に作られたものであるから、信じるべく、また信ずべからずものと言わざるを得ない。 僅かにタイムの中で信ずべきものありとすれば、それは実際にレース態形を把握し、完全に経過を分析し得た時に於いてのみ、能力実態の 表現たるタイムの真実性を把握して、信をおくことが出来るだけである。

昭和13年9月17日発行 競馬と馬券の宝際知識 茂木幹夫 定価2円50銭より抜粋

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